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産科的肺塞栓症(肺血栓症と羊水塞栓症)について

● 肺血栓症:肺の血管に血の塊(血栓)が詰まって呼吸ができなくなり死亡する病気を肺血栓症といいます。産科では帝王切開後に突然死亡したりする時の原因疾患です。

  この肺血栓症は、手術前後の十分な補液と弾性ストッキングの着用や手術後のAVインパルスポンプという血流をうながす特殊なポンプ、さらに低分子ヘパリンという血液の凝固を防止する薬剤の使用で予防できます。うしじまクリニックではこの全てを実施しています。

● 羊水塞栓症:このように予防ができる肺血栓症とは別に、その発症が予測もできず、治療も極めて困難なために急死してしまう疾患に羊水塞栓症があります。子宮の中の赤ちゃんが浮いている羊水が、血管の中に入り込んで肺の血管につまり、呼吸ができなくなって死亡する疾患です。頻度としては、2万から3万分娩例に1例ほどの発生率で、突然に発症し急激に重篤な結果をたどるために、高度医療施設に搬送する前に死亡する事が多いのです。しかも成因が不明なために有効な予防法も治療法もありません。

  最近診断法の進歩が見られ、従来弛緩性出血(産後に子宮が収縮しせず出血が止まらない疾患)とされていた症例の中に、羊水塞栓症が存在する事も明らかと成ってきました。

  臨床的に羊水塞栓症と診断するためには以下のような条件を満たしている事が必要です。

1) 妊娠中または分娩後12時間以内の発症
2) 以下の症状に関して治療が行われた場合

①心停止 ②分娩後2時間以内の大量出血③播種性血管内凝固症候群(出血が止まらなくなる病態です)④呼吸不全

3) 観察された所見や病状が他の疾患で説明できない場合

  これらの条件を満たした時には、できる限り早期に血液を採取して血液中の亜鉛コプロポルフィリンとSTNという物質を測定します。そしてこの値が高ければ、羊水塞栓症が起こっている証拠となります。そのほかにも、母体の血液中に胎児の成分が認められれば羊水塞栓症の診断となります。

  治療に関しては、高濃度の酸素投与、ショックに対する治療を開始しますが、できる限り早い時期にICU(救急集中医療センター)への搬送が重要です。

  お産はなんらの合併症を伴なう事もなくすんでしまう事がほとんどですが、どんなに産科学が発達しても羊水塞栓症の様な防ぐ事のできない疾患がいくつもあります。これらには具体的に防止できる方法がまったくありません。

  医療には疾患発症の予測ができない事や治療にも限界があることも厳しい現実です。

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