新聞によると、この5年間に日本中で陣痛促進剤を使ったお産のために、脳性麻痺になったり子宮破裂でなくなったような事故が33件起きているとの事です。いったい陣痛促進剤とはどんなものなのでしょう。安易に陣痛促進剤を使いすぎていないでしょうか。陣痛促進剤を使うこと自体を妊婦さん本人に納得してもらって使っているのでしょうか。
現在使われている陣痛促進剤にはオキシトシンとプロスタグランディンの2種類があります。オキシトシンは妊娠している子宮にしか作用しませんので、使用法によっては、いちばん生理的に近い陣痛を、人工的に起こすことができます。プロスタグランディンはオータコイドと呼ばれ、ホルモンとビタミンの間に位置するような物質です。このプロスタグランディンは、妊娠していない子宮にも、収縮作用を示します。現在では、この2つの薬剤を同時に投与することは禁じられていますが、以前には、一般的に2種類を混合して使われていました。
それではなぜ、子宮が破裂したり、赤ちゃんが脳性麻痺になったりするのでしょうか?いちばんの問題点は、妊婦さんによって薬剤に対する感受性が大きく異なる事もあり、陣痛をうまくコントロールすることができなくて、強すぎる陣痛(過強陣痛)になってしまうためです。強すぎる陣痛のために、子宮の筋肉がさけてしまったり(子宮破裂)、血管が収縮して胎児に酸素が足りない状態を起こし、脳性麻痺にしてしまうわけです。
陣痛促進剤を使用したために、当然、健康に生まれるべき赤ちゃんが脳性麻痺になったり、お母さんが死亡した33件の数を、全出生数に比べれば、極めて希だから陣痛促進剤の使用はかまわないと考えるのか、促進剤を使用していなかったら助かったのに、と考えるのかは、お産を担当する医師の考え方によって違うでしょう。
当院では、自然に経過観察し、陣痛促進剤をできるかぎり使わずにお産をしています。過去5年間で陣痛促進剤を使用した症例は、3例に過ぎませんでした。ほとんどのお産が妊娠41週6日までに、何ら薬物の処置を加えなくても、自然分娩できた事実を考えると、危険な副作用のある陣痛促進剤を使うことは必要ないと考えるようになりました。
もしもあなたが、陣痛促進剤の使用を勧められたら、十分の納得のいく説明と、厳重な分娩の監視を主治医に確認してから分娩に臨むようにしましょう。