-妊娠中に腹帯(はらおび)をするのはやめましょう。
昔から日本では、妊娠の5ヶ月(妊娠16週から19週の間)頃におなかに腹帯(はらおび)を巻くという習慣があります。さらしを二つ折りにして、すこしでてきたおなかを締めるような格好にします。これは大きくなってきたおなか(妊娠子宮)を、あまり動かないように固定させることによって、子宮がおなかの中で揺れないようにして、何となく子宮が安定しているように感じる妊娠の安定感や、自分で妊娠しているという自覚を与えるのが目的と言われてきました。一時期は欧米でも妊婦用のコルセットができたり、ガードルで大きな妊娠子宮をしっかりと支えるような下着が考案されて普及した時代もありました。
ところが、今日ではすっかり考え方が変わってきました。
妊娠して大きくなった子宮を腹帯などで支えて、背骨の方へ押さえ込んだり、上の方へ持ち上げることはさけた方がよいことが分かってきました。大きくなった妊娠子宮が背骨の方へ押しつけられると、おなかの後壁の方にある自律神経や腎臓へ行く血管、さらには大動静脈を圧迫することによって、高血圧を引き起こしてくる事がありえます。
妊娠中の高血圧は、「妊娠中毒症」と言って、蛋白尿や浮腫を伴い、赤ちゃんの成長を悪くしたり、ひどいときには、お母さんが痙攣を起こして死亡することさえあります。とてもひどい妊娠中毒症では、妊娠の継続自体をあきらめなければならないこともあります。つまり、腹帯をすることによって、人工的に妊娠中毒症を起こさせる可能性があるのです。ですから、腹帯をすることによって妊娠子宮を背骨の方へ押しつけるようなことは避けるようにしましょう。ウサギの腎臓に行く血管の血流を悪くして妊娠中毒症の実験モデルとして研究していたことがありますが、腹帯をすることはまさにこれと同じ様なことです。
いわゆる「犬の日」に腹帯を巻く習慣(着帯の儀)がありますが、今説明したことからも分かるように、腹帯をしめるのは「着帯の儀」をするときだけにしておきましょう。腹帯で妊娠した子宮を締め付けることは、妊娠経過においてもマイナスの面が多く、勧められることではありません。どうしても安定感が欲しいひとは、ゆるめの腹巻きぐらいのものを使用するくらいにひかえておきましょう。