「妊娠に気付かずにX線検査を受けてしまった。産まれてくる子供に奇形ができるのではないか?人工妊娠中絶をした方がよいのではないか?」と言う質問をよく受けることがあります。
答えとして、以下に述べる2つの条件がそろったときには奇形を持った子供の産まれる可能性が高く、この2つの条件がそろわないときには、奇形を持った子供の産まれる可能性はありませんから、人工妊娠中絶を受ける必要はありません。その条件の第1は、
① 放射線に暴露されたのが、妊娠4~10週であること
これ以外の時期では奇形に関して敏感ではありません。この時期は器官形成期と呼ばれ、主要臓器・器官の基になる細胞が分化する時期なので、放射線に対する感受性も高いのです。第2の条件は
② 胎児の放射線被曝量が100mGy(ミリグレイ)以上であること
奇形の発生には、奇形が発生するための最小の線量が存在します。これをしきい線量と言いますが、これを超えて被曝した場合でないと奇形は発生しません。奇形に関するしきい線量は100mGy(ミリグレイ)です。それでは、日常的に行われているX線診断ではどれくらいの線量の被曝があるかというと、最も被曝量の多い注腸検査でも100mGy(ミリグレイ)に達することはなく、一般的なX線検査では奇形は発生しないことは明らかです。
胎児の放射線被曝による影響として、奇形以外にも精神発達遅滞があります。このときのしきい線量も100mGy(ミリグレイ)以上ですが、すでに受精後8~25週であり母親自身が妊娠に気が付いているために、X線検査を意図的にさけていることがほとんどです。
これに比較して母親自身も妊娠に気が付いていない時が、奇形の発生と関与していることが多いのです。X線検査を受ける場合には、普段から以下のようなことに気をつけるようにしましょう。下腹部(子宮)に放射線があたる検査や緊急性の低い検査は、月経の開始から10日間以内に受けるようにしましょう。この間であれば、妊娠している可能性はないわけですから、胎児の被曝に関しては心配することなく検査を受けることができます。
産婦人科以外を受診したときに最終月経や妊娠に関する問診さえないようでは、大変不安です。少なくとも月経開始から10日間以内に、X線検査を考えてくれる主治医ならば、妊娠のことまで気を配ってくれている証拠ですから、安心して受診できると言えるでしょう。