-胎児に障害の危険性-
妊娠中に感染すると、赤ちゃんに深刻な障害をもたらすサイトメガロウイルス(CMV)感染症と言う病気があります。子宮の中でこのウイルスに感染を受けた赤ちゃんの、ほとんどは無症状ですが、その3%に異常が起こることがあります。異常な症状とは、肝臓や脾臓が腫れてきたり、黄疸、出血斑、頭が小さかったり、眼の障害や脳内石灰化像などで、予後も悪く神経学的後遺症を残す事が多くなります。これを先天性巨細胞封入体症と呼びます。
いままでは、この疾患に関して日本人のCMV抗体保有率は95%と高く、妊娠中にはじめて感染する可能性は、わずか5%と言われていました。この高い抗体保有率の原因は、母乳による感染と産道での先天性の感染によることが分かっています。さらに出生直後の新生児の尿中から、CMVが高い頻度で分離され、その値に欧米と日本とであまり差がない事から、初感染だけでなく、CVM感染の再燃によっても赤ちゃんへの感染が起こることも分かりました。この高い抗体保有率のため、日本では異常のある赤ちゃんの出生は少なく、妊婦健診でも特に気をつけて検査をする事はありませんでした。
ところが、最近の報告では、金沢市で抗体保有率が80%近くに低下していたり、先月の日本産婦人科学会の静岡県の報告でも24%の妊婦さんに免疫がない事(CMV抗体保有率76%)が分かっています。15年前には5%以下でしたから、約5倍の感染率に上昇しています。社会の衛生状態や性風俗の変化に伴なって増えてきているのかもしれません。
この疾患の感染源のひとつは幼児や児童です。出産年齢になった女性にCMV抗体検査を行い、CMV抗体陰性の人には幼児、児童が感染源になる事認識してもらい、託児所の職員などには保健衛生指導を行う事が大事です。幼稚園や保育園で働いている妊婦さんは、日常の手洗いをきちんとする事、さらに妊娠中でも性交渉でのコンドームの使用が大事です。妊娠初期からコンドームを使用する事は、その他の疾患(GBSや流早産)の予防にもなりますから必ず実行しましょう。