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C型肝炎ウイルスの母子感染について

  C型肝炎ウイルスは、最近、日本の肝臓癌の原因として大変重要になってきました。今まではC型肝炎ウイルスの感染は輸血や血液製剤が主要な経路でしたが、これらが激減した今では、母子感染が重要な感染が経路として残っています。

  それではどんなときに母子感染が起こりやすいのでしょうか?現在までに明らかになっているのは、HCV抗体が陽性であってもHCV RNAが検出されないときには母子感染は起こりません。母子感染が起こるのは母親がHCV RNA陽性の場合であり、感染率は約10%です。母親の血中HCV RNA量が多い場合でも全例に感染が起こるわけではないので、HCV母子感染にはまだわかっていないほかの要因もあるようです。

 次に分娩方法と感染については、帝王切開と経腟分娩には差がないという報告がほとんどでしたが、最近の研究では経腟分娩での方が高率に感染が起こっているようです。しかしながら、HCV感染のその後の病態がそれほど深刻とはいえず、単にHCVキャリアというだけで帝王切開の適応にはなりません。母乳による感染については、母乳中にはHCV RNAが検出されず、母乳哺育時と人工乳哺育時の間に差は認めれれません。母乳哺育による感染はありません。HCVキャリア妊婦から出生した児がHCV RNA陽性になるのは分娩直後から1ヶ月以内です。従って、感染の多くは分娩時にすでに起こっていると推定されますから、HCV RNAが陽性だけで母乳哺育を禁じる必要はないでしょう。

  HCV RNA陽性の赤ちゃんは血清トランスアミラーゼ上昇を示しますが、臨床的には全くの無症状で発育もほぼ正常です。自然経過でHCVの排除が起こる可能性が3歳過ぎまでありますから、インターフェロンなどの積極的な治療はせずに経過を診るのがよいでしょう。なお、HCV感染によって、死亡率の高い劇症肝炎を発症した報告はいままでにはみられていません。

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