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つわりの時には、好きなものを、好きなときに、好きな量でつまみ食いしましょう。

  妊娠初期におなかがすいたりや食べ物などのにおいをかいだだけで吐き気や嘔吐をしてしまうことをつわりと言います。約80%の妊婦さんに起こりますが、この原因は未だ明らかではありません。ただ、お母さんの子宮の中に「赤ちゃん」と言う異物が宿り、劇的に変化する母体内環境にお母さんがうまく順応できない結果、発症するのではないかと考えられています。

 現在のところ考えられている仮説は3つあります。①妊娠によってホルモンが大きく変化するために起こるという説②精神的に不安定になって起こると言う説③妊娠に対する免疫反応が関係しているという説などがあります。

  受精した卵が卵管を転がり落ちて、子宮内膜に根付くと胎盤(赤ちゃんとおかあさんの栄養や老廃物を交換する組織)の元になる絨毛という組織が作られますが、この絨毛が作り出すホルモン(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)が、吐き気に関係している中枢神経を刺激するのではないかと言われています。

  また、つわりのひどい妊婦さんたちに共通する性格は、精神的に神経質な人が多く、他人への依存心の強い人や過度の心配性の人は、重くなり易い傾向にあるようです。つわりをまったく経験しないで分娩まで至る人もいることや、初回の妊娠ではひどいつわりだったのに2回目はまったくつわりがなかったりする事実は、性格的あるいは心理的な要因を考えさせます。妊娠に対する免疫反応の関係に関してはあくまでも仮説の段階で、詳しいことは未だ明らかではありませんが、実際にはこれらの3つの原因が複雑に絡み合ってつわりが起こるようです。

  いずれにせよ、つわりは生理的な現象ですから、日常生活の工夫で乗り切ることができます。つわりを乗り切る原則は、好きなものを、好きなときに、好きな量で食べる事です。また、においや空腹がつわりの引き金になりますから、おにぎりや冷たい麦茶などを冷蔵庫に入れておき、ちょくちょくつまみ食いをするなどで意外とうまく乗り切れるものです。 ただし、体液の電解質バランスが壊れたり、糖質の摂取ができず脂肪をエネルギー源として使ったときにできる副産物のケトン体が高値の時には、妊娠悪阻(おそ)と呼ばれる病気の状態になりますから、補液にビタミンや糖質の点滴などの治療が必要になります。また、5Kg以上の急激な体重減少や幻覚まで見えるような羨妄状態の時には、IVH(中心静脈栄養)という大きな静脈にカテーテルを留置して栄養補給を持続的に補うような治療もあります。最後に重要なことは、ビタミンB類の欠乏はウェルニッケ脳症という不可逆な精神疾患を起こすことがありますから、補液中に決して忘れてはなりません。

  つわりは、ちょっとした食事の工夫や気分転換などで意外とうまく乗り切れるものです。いろいろな工夫でもうまくいかずに困ったときには、かかりつけの産科主治医にご相談ください。

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