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妊婦さんが魚貝類を食べ過ぎてはいけない理由

  デンマークにあるフェロー諸島は、人口約47,000人の島です。国際捕鯨委員会から捕鯨が認められており、長年ゴンドウクジラを食しています。人種はヨーロッパ系です。
  ゴ ンドウクジラのような大型魚には、食物連鎖の結果としてメチル水銀が蓄積しやすいことがわかっています。1986年3月1日から1987年12月31日の 間に、このゴンドウクジラをたくさん食べているこの地域で出生した子供と母親について、神経行動発達検査を行ったところ、神経心理学上の評価項目におい て、統計学的に有意な関連が明らかとなりました。正常の子供たちに比べて、神経学的な反応速度が遅いことがわかりました。水俣病のような多量の水銀でなく ても、神経心理学的に影響を及ぼすであろう事が明らかになりました。

  これとは別に、セイシェル共和国で1989年から1990年の一 年間に、この地域で出生した子供と母親に関して、神経発達検査を行いました。フェロー諸島との違いは、鯨のような大型魚を食する機会は少ないと言うことで す。いずれも小児の神経、認知、行動への水銀暴露の影響は認められませんでした。

  つまり、胎児期の低濃度のメチル水銀の摂取でも、中枢神経発達に関して影響する(たとえば音を聞いた場合には、1/1000秒以下のレベルで遅れるという微細な反応の遅れ)事がわかってきました。

  これらの研究が明らかにされてから、諸外国では妊娠している女性や将来的に、妊娠するであろう女性が、これらの大型魚を摂取することに関しての摂取量の勧告を発表しています。

  日本では平成17年8月12日に厚生労働省薬事・食品衛生審議会の乳肉水産食品部会は、妊婦などの対して、クロマグロなど16種類の魚や鯨、貝などを食べ過 ぎないように呼びかける注意事項案をまとめました。食べ過ぎると、これらに含まれるメチル水銀が、胎児の発達に影響する恐れがあるためです。週何回まで食 べてても心配ないか目安を示しています(表1)。

大切なことは、魚は不飽和脂肪酸などを多く含み、健康によい食べ物ですから、妊婦さ んは魚を食べるなと言うわけではなく、水銀濃度の高い魚を食べ過ぎないように、と言う意味ですから、間違えないようにしましょう。蛇足ですが、水俣病のよ うな重い障害がでるのは制限を100倍程度超えた場合で、通常はあり得ません。

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