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成人T細胞白血病のおかあさんでも授乳はすべきです。

 西日本から九州地方にかけて多い成人T細胞白血病(ATL)ウイルスに感染しているお母さんのお産で は、赤ちゃんへ感染予防のために、今までは断乳を勧めていました(乳汁中のリンパ球に潜んでいるATLウイルスが感染源となります。)。

 しかし、最近の研究で分かってきた多くの事実からは、必ずしも厳密な断乳はしなくても良い様です。成人T細胞白血病(ATL)のお母さんが母乳哺育をした時間と新生児へ感染との関係が明らかになりました。

  1. 完全に母乳哺育で育てる場合では、新生児に感染する可能性は25%程度です。
  2. 完全な人工乳(ミルク)での哺育では、3~5%の感染率です。0%でないのは産道での血液を介しての感染が考えられています。
  3. 生後3ヶ月までに母乳哺育をやめたときの赤ちゃんへの感染率は8%程度です。
  4. 生後6ヶ月まで母乳哺育を続けたときの赤ちゃんへの感染率は15%でした。

 これらの事実を兼ねあわせて考えると、生後2ヶ月ぐらいまでは母乳哺育をしても、完全断乳との大きな差はないことが分かります。生後2ヶ月までで母乳哺育をやめれば、おそらく感染する可能性は、5~8%程度ではないかと予測されています。

 母乳で育てると言うことは栄養学的な有用性も当然のことですが、いわゆる母児相互作用として、愛情を育むと言う大きなメリットがあります。母乳には単なる栄養素だけではなく、ビタミンI(愛)も多量に含まれている訳です。

 うしじまクリニックでは、以上のことを詳しくご本人にご説明し、納得していただいたお母さんでは、母乳哺育を2ヶ月くらいまでする事をお勧めしています。

 また、乳児突発死症候群が非母乳栄養の場合は母乳栄養に比べて、5倍も発生しやすく、その原因が母児相互作用が呼吸中枢の成熟に深く関与していることが推察されています。従って確固たる根拠がない限り、母乳栄養を中止することは望ましくないと考えています。

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