元気で何の異常もなく育っていた赤ちゃんが,睡眠中に突然、呼吸が止まって死亡する病気をSIDS(乳児突然死症候群)と言います。日本でも年間に約600人あまりの赤ちゃんがこの疾患のために亡くなっており,2000人の出生に対し1人の割合で発生しています。しかしながら,SIDSの原因はいまだはっきりしていません。また,この病気は今のところでは予測は不可能で完璧な予防法はありません。なぜ,突然に呼吸が停止して死亡してしまうのか明らかではありませんが,正常の赤ちゃんでは睡眠時無呼吸になったときには、自動的に呼吸中枢が覚醒反応を起こし呼吸を持続するような仕組みになっています.この呼吸中枢の何らかの異常のために覚醒反応が遅れてしまい,長い無呼吸から病的な無呼吸にまで陥ってしまい、死亡すると考えられています。
最近、このSIDSの原因に関して、新しい考え方がでてきました。正常な赤ちゃんの体温と泣き方の変化について、詳しく観察した報告によると、赤ちゃんは、泣くことによって熱を産生しています。泣くことによって、体の中心部の体温が上がり、泣いた後の放熱は主に皮膚からの発汗などによって行われ、一定の体温を維持しているわけです。睡眠中の赤ちゃんが突然に泣き出すのは、体の中心部の体温が下降したために、赤ちゃんが反射的に泣くことによって熱が産生され体温の下降を防ぎ、一定の体温を維持する仕組みになっているのです。
したがって、体温の維持に関して大事な働きをするのは、寒さに対して覚醒し、体温上昇のために泣くことです。寒さに対しては、反射的に目が覚めるのに、体温が暖かすぎると、この反射的な覚醒が起こりません。赤ちゃんは寒いときには目を覚まし泣き出すのに、暑すぎる時には眠り続けたままなのです。これが呼吸の抑制につながり、ひいてはSIDSを発生させてしまうことになるのです。
事実、SIDSの特徴としては、睡眠中の死亡であり、着せすぎになりがちな冬に多く発生し、室温が高く、うつぶせ寝(赤ちゃんの体温が局所的に高くなる)、人工乳の赤ちゃん(ミルクが熱めで、体温が上がりがち)に多く発生しており、さらに、死亡した赤ちゃんをよく調べると、死亡後時間が経過しているにもかかわらず、高体温の児が多く、発汗が認められることからもこの新しい仮説を指示する形になっています。
わたしたち、大人の着せすぎが赤ちゃんを簡単に高体温にしてしまうことがSIDSの原因の可能性があります。つまり、赤ちゃんの体温の調節のメカニズムを理解せず、誤った育児環境がもたらした結果なのかもしれません。
赤ちゃんの体温が上がりすぎないよう、うつぶせ寝と着せすぎをやめ、通気性や吸湿性の悪い衣服を着せたり、不要な靴下や帽子を着せることは絶対にやめましょう。