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緊急避妊薬の市販化を考える

 緊急避妊薬が 市販薬として購入できるようになるとこれを服用すれば 100%妊娠を阻止できると、一般の方が誤解されるのではないかが心配です。緊急避妊薬は性交後24時間以内に服用すれば99%程度、72時間以内ならば95%程度の避妊ができるとされています。つまり妊娠する可能性があることと、異常妊娠は防ぐことができないことを知っておくべきです。

 緊急避妊薬をのんだだけで絶対に妊娠をしないわけではありません。本人が気がつかない間に妊娠が持続して、法的に(日本では妊娠22週以降は中絶できません)分娩せざる得なくなったり、いわゆる異所性妊娠(子宮以外での妊娠)になったことを分からずに死亡してしまうことを産婦人科医はいちばん恐れているのです。

 現時点では、そういう事まですべての薬剤師の方がしっかり説明できるとは思えません。薬剤師もそこまでの教育は受けていません。緊急避妊薬は排卵前のある時期に服用すれば排卵を阻止したり、遅らせたりするであろうという事になっていますが、完全なメカニズムはまだ不明です(以前は、着床(子宮に根付く事)を阻害するという説明もありました。)。

 日本は妊娠や避妊、性感染症に関しての正しい知識を得られる教育機会がほとんどありません。日頃から希望しない妊娠をしないために経口避妊薬を使用している女性も少数です。性感染症の予防のために確実にコンドームを使う文化もありません。

 もし市販化されて簡単に避妊できることで、コンドームを使うことが減れば性感染症が増えます。事実、梅毒は過去にないほど若い女性で増えています。さらに梅毒患者さんではHIVの感染者も多いという事実から考えると、正しい性に関する知識なしの市販化は現時点では危険だと思えます。緊急避妊薬の市販化はまだ時期尚早ではないでしょうか。

 

個人的に考えているのは、特定の緊急避妊に関するライセンスを持った専門薬剤師が処方できるような24時間対応の薬局が市販化への可能性の第一歩かもしれません。

 

 最後に、性交渉が排卵日前後ではないから緊急避妊薬はのまなくていいと指導する医師が時にいますが、 FIGO&ICEC Emergency Contraceptive Pills Medical and Service Delivery Guidance 4th Edition(2018)では、実際には、特定の行為が受精可能な日に起こったのか、そうでない日に起こったのかを判断することは、しばしば不可能である。したがって、避妊をしていない性交があったのが受精が起こり得ない日であると仮定して、緊急避妊薬の使用を控えることはするべきではない。また、米国産婦人科学会 (ACOG) Practice Bulletin(2015)では、妊娠検査をするために緊急避妊の使用が遅れてはならないし、性交があったのが排卵周期の妊娠可能時期ではなかったかもしれないという理由で緊急避妊薬が断られるべきではない。というガイドラインがあることも知っておきましょう(緊急避妊薬を希望する人にはすべて処方しなさいということです!)。

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