多くの薬が不足しているのは出荷調整のためです。
出荷調整とは、製薬会社が医薬品の出荷量や出荷先を調整することをいいます。原因は、他社製品の供給停止や供給制限、販売中止といった影響により、想定を上回る注文が入って対応できない点にあります。業界では2021年下半期から、出荷調整が起きているとみています。
きっかけは、1年余り前の2020年12月に発覚した福井県のジェネリック=後発医薬品メーカー「小林化工」の不祥事です。水虫などの真菌症の治療薬に睡眠導入剤の成分が混入し、全国各地の240人以上に健康被害が出たほか、国が承認していない工程での製造などの不正を長年にわたり組織的に隠蔽し続けていたことなど悪質な実態が明らかになりました。
こうした医薬品への信頼を根底から覆す事態を受け、全国の都道府県が事前の通告なしで立ち入り調査を行うなど査察が強化され、メーカーによる自主点検も行われました。
その結果、ジェネリック大手3社の1つ「日医工」(富山)をはじめ複数のメーカーで製造工程の問題が見つかり、相次いで業務停止命令が出されるなどして幅広い種類の医薬品の出荷が次々に止まりました。
発端となった「小林加工」は業務停止命令の期間の後も再開には至らず、工場などを別のジェネリック大手に譲渡することになったほか、「日医工」は本格的な再開には至っていません。
ある会社の出荷が止まると、同じ成分の薬を作っている別の会社に注文が集中します。注文を受けた会社でも自社の供給量を上回って出荷を制限せざるを得なくなり、さらに別の会社へと玉突き状態のように出荷調整が広がっていきます。こうしたことで大きくなった供給不足の状況は去年の夏ごろをピークに、その後も回復しないまま今に至っているとみています。
いつ元に戻る?
残念なことに来月や再来月にも解消、といった状況ではなさそうで、当面は今の状況が続く見込みです。薬の生産に目を向けると、まずは出荷が止まって供給が減った分の増産が必要ですが、安全性が厳しく問われる医薬品の場合、生産設備の増強に1年はかかるということです。厚生労働省はメーカー側に増産を要請したり、必要以上の発注を控えることなどを薬局や医療機関に呼びかけていますが、十分な効果が出ているとは言えない状況です。
厚生労働省は以前からジェネリック医薬品の使用を推奨しておきながら、まともな監督もできず、薬が足りない現状に対して早急に実効可能な対策をうつべきでしょう。